9月24日、東京にてベーカリーフォーラムの講師をお願いされていた。
はて?何が私の役目か?しかも、こんな若輩者が有名なパン屋さんや大手の製粉関係者相手に何を話せば?・・・と思っていたが、考えてもしょうがないので、経験したこと、挑戦しようとしていること、また事実国産小麦の不平等というより、もったいないお化けのでそうな現状を説明させてもらった。
十勝のベーカリーキャンプにも講師として来ていただいた竹谷さんからのお誘い。
きっと、国産小麦の可能性や栽培や問題点など多くのことを、パン屋さん流通業の方に伝えてほしいとのメッセージを勝手に解釈させていただき、政策が変わること、政策誘導がある事実、成分は外国よりもかなりハードルが高い現実も、参加した皆さんにお話しさせていただいた。
”日本のパン”っていったい何なのか?原料の小麦はもちろんほぼ外国産だ。
国産のほぼ全てが、うどんに向く中力粉。それをパンにしようとしても、食感の違いもあり困難。
結果、パン用に必要なタンパクの高い小麦が重要視されてきたが、やっとその栽培方法や種も安定性がみられるようになってきた。だから、これから時代に”メイド イン ジャ・パン”は世界にでていくんだと思う。
アジアモンスーン気候で、湿気の多い小麦栽培にてきさないこの国で優秀な種を育て、農家がそれを蒔き、製粉会社がより工夫をして挽き、製パン技術者たちが美味しい製品にして、国民が食べるそれがホントの、”メイド イン ジャ・パン”だ。米以上に食べられるようになったパンは今後、外麦と共存共栄しながら、それでいて日本人のDNAを強固するモッチリ感のある粘りと、独特の風土から生まれる香や味に特化したものになってほしい。普通のパンじゃ、この国では物足りない。外国の真似をして、それを追い越してきた工業製品のように、パンができるようになった今、海外にない特色ある種が人間同様必要なのだ。
キタノカオリや、春よ恋など味に特徴があればいいし、ゆめちからは世界の品種の中でも超強力のとんがった品種だ。
よく”この品種は、外国のOOOといいう小麦に勝るとも劣らないOOOOが特徴”なんて言っちゃったりするが、それでは消費者やパン屋さんが選んでくれない。同じだったら安い奴でいいのだ。
また、制度にも問題がある。国による基準があるのだが、これが需要者側と最新の品種特性にマッチングしない事実がある。ここでは私の思う疑問や改善点を上げる。ただし、国の制度に立て付く気は全くない。この小国でまたこの小雨の多い麦不適作地で2030年までに、小麦80万t(現在)⇒180万tに倍増計画を掲げる、戦略的作物(なんか小麦もミサイルみたく見える・・・)に国が指定されているからこそ、また今年の世界各地の大干ばつのような天候異変で禁輸措置をすぐするような国々との農産物の交渉をする上でも今あるこの国の農地からでてくる小麦を有効利用できる方法はあるのではないか?と現場で埃まみれで仕事をしていると思うのである。
疑問点1:小麦の等級検査:国の試験をうけた穀物検定検査員が小麦の外見の検査を行う。
1等麦、2等麦、等外(規格外のこと)に分けられる。等級をつけること自体に悪さはないと思うが、実質上製パン、製麺、製菓にする際に重要なんのは、小麦の外見ではなく成分だ。”人間、顔じゃない中身だ!!”なんていうが、確かにある程度の外観は必要かもしれないが、結局、その年の1,2等どちらも成分的な違いは大きくは発生しない。急な天候の変化に寄る表皮のシワや、特に強力小麦(タンパク高い硬質小麦)は外見がもともと軟質小麦(中力小麦)と比べても悪い。一昔前までは、品種によって、1等、2等とほぼ蒔く前に決まっていた過去もあったくらいだ。これによって、成分の良し悪しにかかわらず麦価(原料価格)に差がで、さらに品質支払い(成分に対する助成金)についても1,2等で違いがでる。ちなみに、海外からやってくる外麦は日本の小麦の規格でいえばほぼ等外(規格外)に相当する。
疑問点1に対する問題点:
1.問題点は農家が見た目のよい、作りやすい小麦を選んでしまうこと。需要とは関係なく、助成率から考えて中力小麦をまいてきた過去がある。また最近までは硬質小麦も今のような安定した品種がなかったのも事実だが、パン用に応えようなんて外見が悪くて、品質支払いも劣るんであれば蒔く理由がないというのが農家の本音だ。うちも”キタノカオリ、春よ恋を蒔いてください!!”と業者はいうが、その要望に対して辛酸をなめた過去は何度となくあった。だが、ニーズは小麦の見た目じゃないことも良く理解できる。人気があるから。実際、麦はブサイクでも美味しいし!!
なにより心配なのは、今後の育種だ。新しい種の見た目が問われるなんて、食糧難がどうこう言ってる今、というより世界中で日本だけだと思う。ただでさえ、育種に金を投じない=子供を産まないというご時世の時になんでこんなアホなことがまかり通るのか?その分、農家助成にも成分でランクを決めるべきだ。例えば、FN値が300以上のグルテンの安定性とタンパクもその用途に分けて、最低これ以上は必要という基準値%を決める。また容積重も重さがあれば、その分畑作りを頑張った証拠(堆肥や肥料の投入があり、防除管理もその裏事情にある、もちろん天候にも恵まれたなど)、840g/L以上はよりプレミアをつけるとか、なにせ麦の見た目(外見検査)ではなく、成分に焦点を当てるべきだ。
疑問点1に対する効果:
1.より成分重視となると多様化した麦栽培になる。お米のような各地方や各品種による独自の成分決定がなされ、より生産地発信力の強い小麦が栽培される。全国に特徴だった品種が現れて、地域で加工され、雇用も生まれ、農業者も加工業者も流通も強くなる。原料生産だけでは今までと同じで助成頼みになりかねない。
2.小麦は省力栽培のできる作物である。そのため農業の大規模化には必要不可欠な作物だ。ただし、土壌病害虫の問題や環境変化による作付の難しさも今後考えられる(人間のエイズやインフルエンザ改良型が同じように発生する)。品種による抵抗性(縞委縮病、立ち枯れ病、赤カビ病などなど)を順次投入していかないと、市場のニーズではなく、農地が持たない可能性もでてくる。だから外見検査とかではなく、農業者や地域の選択支の広い麦作りにしてほしい。
疑問点2:外国麦は良くて、国産小麦はダメな容積重
成分値の基準は北海道ではこのようにランク付けされている。品種別の基準値、許容値を参照してもらいたい。
小麦 品質評価基準H19~.pdf
資料:北海道の小麦品種と栽培のポイントP14
小麦の容積重とは、胚乳(白い粉になる部分)の重さをほぼ示す。つまり、太っていればいるほど良く、製粉部留りもよいのだ。
国の国産麦に対する容積重(H19~適用)は
うどん用(中力小麦) :840g/L(基準値)
パン用・中華麺用(強力小麦):833g/L(基準値)
となっている。簡単にいうと、粒が太っていればいるほど、小麦の見た目(外見)も良い。
今年(H24産)のうちの5品種全てが、860g/Lをこしているのでまず問題ないが、例えば840g/Lに届かない細い麦の時(高温障害のあったH22.23年)などは問題になる。830くらいいかないとかなり、粒の見た目は悪くなる。但し、不思議な事実データもある。それが国がだしている外国産麦類検査実績表の成分値だ。
H21輸入小麦品質一覧表.pdf
H22輸入小麦品質一覧表.pdf
上記二つは、輸入小麦成分表だ。
注目の容積重のところは
H21年:800g~817g/L(代表5銘柄のh/Lをg/Lに変換)
H22年:801~816g/L(代表5銘柄のh/Lをg/Lに変換)
ということで、高く見積もっても
どの品種も 810g/Lがその容積重にあたる。
ふ~ん、はは~ん、待てよ~この数字じゃ日本の等外(規格外)にあたるじゃんか!!
確かに、日本の基準でも840g/L以下だから等外に絶対になるというのは外見の問題だ。しかし、事実上、810g/Lとなったら、かなりの細い麦になる。なぜだ?海外からの輸入麦は細くても製粉されるのに、日本の場合は規格外だ。多分網目のサイズも2.0mmくらいに設定されてるはず。日本は2,2~2,3mmが通常である。
例えるなら、ハードル競技で、日本人が走るレーンだけハードルが以上に高いのだ。なんで?ゴール地点の収穫時には雨の心配や途中カビの防除や手をかけてるのになんで、外人よりも日本人が自国でハードル上げられるんだ?とスタートラインで不満そうにしているのだ。
疑問点2に対する効果:もし容積重が外麦並に近づいたら、どうなる?
1.外国の数字が基準になれば、供給率は優に5%以上は増えると予測する。今の生産量80万tとするば、その5%の4万tが国産小麦粉として出荷可能になる。それは確かに現容積重の基準値には満たないから、麦価格をより安価に設定して供給量を増やせば、農家手取り収入増⇒流通、製粉取り扱い増で売上UP⇒パン、麺、菓子屋さんも安価でより安定した国産麦の製品を販売UP⇒消費者購買メリットUP=国の自給率UPという連鎖が起こる。現状では、等級(外見)検査で細麦は排除される傾向になっているが、問題は先に述べたように見た目じゃなく、品質だ。事実、海外の麦もFNが400secを越える安定品質を確保している。収穫時に雨にあたると急激にこのFN値は下がる。許容値が200secに日本は設定されているが、これを切ると澱粉がぶっ壊れて、生地が繋がりにくく、生地ダレや麺の切れに繋がる。雨のリスクをもつ日本ではこれが一番の品質問題につながる。
なので、北海道の中央地帯などでは、春小麦の初冬まき技術が普及していった経緯がある。収穫時期の8月お盆の雨のリスクを避けたいためだ。みんないい小麦作ろう!と頑張ってるのにそうならない時もある。でも余りにハードル上げすぎじゃないないのか?税関で、細めの日本人は規格外?みたいなはなし。細めの外人が大量に入国できるのに、自国で拒否される?そんなことってあっていいのか?これじゃもったいないお化けがでてもおかしくない。なんで?なんで?なんで?
疑問点3:超強力小麦のタンパクに上限値があるのはなぜ?
1.パン・中華麺用の小麦のタンパク基準値は11.5%~14%以下、許容値は10.0%~15.5%になる。
基本的に、パンの膨らみ等を要するタンパクは低いのは問題だが、高いのに越したことはないはず。
しかも、農家はタンパクを上げるために止め葉期や、出穂期に窒素肥料の投入(追肥)を施す。つまりコストをかけて、要望のある高タンパク小麦を生産しよう!!と努めるのだ。それが、15.5%以上になるとランク外となり助成額が下がる・・・・。
待ってよ~高タンパク小麦がほしい!っていうから、コストかけてやってるのに出来た小麦が高タンパクすぎる・・・超強力の超って何?世界に類をみない高タンパク小麦ができました~!!という喜びもつかの間、待ちうけるのは”ヒザかっくん”くらいの基準値。せめて、低タンパクはペナルティ!高タンパクは上限なしにしようよ!!”超”って流行りでいってるわけじゃないんだから。これじゃ、農家も肥料の投入を控えちゃうんじゃない?
疑問点3に対する効果:タンパク上限値がなくなったら?
1.日本は肥料資源がない。唯一あるのは石灰くらいかもしれない。タンパクを上げ、実の充実を図るのに窒素肥料をつかう。日本ではナフサから精製される尿素、それから鉄鋼石の副産物である硫酸アンモニウムが主体で、この他にもチリ硝石や硝酸アンモニウムなどもある。きっと一番多く使われているのが、硫酸アンモニウム(N21%)だろう。これも、日本で生産された鉄鉱石からの鋼材副産物で、なんせ鉄がでないとつくられない。国内循環していたいままでは良かったが、なんだか最近この肥料も供給に怪しさを感じる。なんせ自動車メーカー等の工場が海外移転し、鉄鋼石の利用料が激減してきてるからだ。今では中国からの輸入物も多くなっている。また10年前のほぼ倍の値段になっている。前置きはながくなったが、要は経済と密接に関係している。農家がタンパク上限を越えるからと資材等ニしなければこうした少ない自給(実際はそうは呼べないが)肥料も使えなくなる。
ますます需要を先細りさせるような基準値のままで良いのか?また、率直に超強力という今までの想像を越えたイレギュラー品種がでてくることを歓迎するような農政と基準値であってほしい。
疑問点4:お菓子用の低タンパクの基準値がない!
1.今度は低タンパクの小麦の基準がないのだ。主にお菓子用に使われる低タンパク小麦は品種改良されてきてなかった。しかし、昨年東北農業研究センターにて、国内発のお菓子用に開発された低タンパク小麦「ゆきはるか」がデビューした。しかし、壁にぶち当たったのは、この低タンパクするぎる小麦に対しての国の基準がなかったこと。許容値でも8.5%とあるのだから、これ以下になった場合にランクがより落ちることになる。しかし、その低いタンパク数字がお菓子作りにかかせないのに、%が低いことでランクが下がるのだ。なぜ事例がないからといって、より幅広い用途を想定した基準にしないのか?
疑問点4に対する効果:底タンパクの基準値も設けたら。
1.もちろん小麦の汎用性が広がり、強力粉同様に地域のスイーツとして地元でお菓子等の発信が可能になる。品種改良の幅も広がり、中力小麦ぜんぱんの品種改良にもあらたな兆しがあり、こうした小麦で世界に日本の和菓子も発信できればより強い菓子作りになる。
以上、長々と書いたがきっとしっくりくる方もいれば、そうじゃない方もいると思う。
国産小麦のハードルが高いとは思っていないが、余りにもったいないんじゃないかと思う。
海外の小麦が混麦されて、品質だけでとられているのに、この国でどうしてそんなジタバタしているのか?
「食糧確保が困難な将来が見込まれる」なんていっておきながら、なぜもっと有効利用しないのか?もし今の規格外や基準を見直せば、もっといろんな用途の品種が生まれ、地域でも特色ある小麦からの商品が開発され、雇用がうまれ、観光客がくる町つくりにもなりえるのに。・・・今の外見検査は特に誰も得していない、成分基準も見直さないと新しい種が生まれない。今の農力を落とすだけじゃないのか?
もったいないお化けのつけはいづれ世界情勢から回ってくる。
”その時変えましょう!!”みたいな検討というなの先延ばしではなく、もっと真剣に生産者の自立や技術向上をも含めた麦の基準制度にしてほしい。これは農水にかかっているといいたいが、製粉業界にも重要な問いかけだ。10%ほどしかない自給率の小麦ならいらないとはっきりさせるのか?それともどちらの生き残りをかけても、制度の見直しをかけるのかは、粉ひき屋にもかかっている。